(聖愚問答抄下 御書四〇二頁四行目) 人身は得難く、天上の糸筋の海底の針に貫けるよりも希に、仏法は聞き難くして、一眼の亀の浮木に遇ふよりも難し。 今既に得難き人界に生をうけ、値ひ難き仏教を見聞しつ、今生をもだしては又何れの世にか生死を離れ菩提を証すべき。 夫一劫受生の骨は山よりも高けれども、仏法の為にはいまだ一骨をもすてず。 多生恩愛の涙は海よりも深けれども、尚後生の為には一滴をも落とさず。 拙きが中に拙く愚かなるが中に愚かなり。 (通解) 人間に生まれ変わることは難しく、天上界から糸を垂らして海底の針の穴に通すよりも稀である。 仏法は聴聞するのが難しく、一眼の亀が身の入る穴の開いた浮き木に遭遇するよりも難しい。 今既に得難い人間界に生をうけて、値い難い仏教を見聞したのに、今生に何もしないでいては、またいつの世にか生死の苦しみを離れ、菩提を証得することができようか。 それ一劫の間に受けた生は多く、その骨は山よりも高く積み上げられるけれども、仏法の為には未だ一骨をも捨てていない。 多生の間に情愛で流した涙は、海よりも深いけれども、これまで未来世の為には一滴の涙も落としていない。実に拙く愚かなことである。 |